統計解析係 鈴木誠
「人口と失業」について考えながら、世の中のしくみ(社会経済)が理解できるように、統計の正確さにこだわらないで、やさしく分かりやすく、お話しするつもりだ。
ノートをとらなくて済むよう、テキストを作りましたので、一緒に読もう。分からないことがあったら、その都度、質問してね。
はじめに 〜 数字を読んで世の中の変化を探り出そう
次の問題を、しばらくの間、考えてみよう。
戦後、日本の人口は、その数が激増したというだけではなく、そのなかみ(年齢構成)もまた激変した。
データをみてみよう。
太平洋戦争が終わった5年後の昭和25年(1950年)における日本の人口は8412万人で、うち15歳未満は35%、65歳以上は5%、なんと人口の3分の1は子どもだった。
しかし、50年後の平成12年(2000年)の人口は1億2693万人、15歳未満は15%、65歳以上は17%と激しく変化した。
たった50年間で、人口が1.5倍に増えたと同時に、子どもの割合が半分以下に縮小し、高齢者の割合が3倍以上に拡大した。
- どうして、これほど変化したのだろう?経済のしくみの変化が、どう影響したのか?
- 逆に、この人口の変化は、生活や経済にどのような影響を与えたのだろう?
- 人口について考えることは、どんな意味があるのだろう?
人口や経済など、世の中に関する問題は、とてつもなく大きいうえに、いろいろな要素が複雑に混ざり合っていて、つかみどころがない。
テレビで、その姿を見ることもできない。どのように考えたら、いいのだろうね。
ちなみに、50年後(2050年)の日本の人口は1億59万人、15歳未満は11%、65歳以上は36%と予測されている。
ポイント1「問題や現象の本質・核心を探り出そう」
世の中のできごとは、難しい言葉で「社会経済現象」というけれど、目には見えないし、複雑で、
つかみどころがないから、そのまま解こうとしても考えにくい。
たとえ、複数のできごとが複雑に重なり合っているそのすべてを明らかにすることが可能だとしても、
情報は過剰になって役に立たない。整理された情報が求められている。
そこで、すじみちをたてて、論理的に考えて、枝葉末節(しようまっせつ:細かなこと)は切り捨てて、突き詰めていく。
または、問題を小さく崩して、単純にしたり、場合分けをして、別々にひとつひとつ解いていく。
こうして、考えやすいように分解したり、展開したりして、「本質」「核心」「最も重要なもの」に接近(アプローチ)していく。
宝探しでは、小さなダイヤ10個より、大きなダイヤ1個みつけることのほうが価値があるように、世の中の分析では、
小さな要素にこだわらず、最も大きな要素を探り出そう。
ポイント2「自分自身の問題意識を持とう」
世の中のできごとを解くときも、自然現象の場合と同じく、まず「観察」から始める。
違うのは、世の中のできごとを考えるときは、「統計データ」を集めるということ。
つまり、「数字の意味することは何か」を分析したり解釈したりする。
けれど、この数字は、ぼんやり眺めていただけでは、何も語ってくれない。
リンゴが木から落ちるのをみても、ぼくたちとニュートンは、目の付け所が違った。
「月もまた、地球に落ち続けているのではないか」と、リンゴと月を結びつけた。これは天才の発想だ。
凡人のぼくたちは、どうして「その数字を知りたい」と思ったのか、自分自身に問うことから始めよう。
これを「問題意識」という。簡単にいえば、「問い」を自分の言葉に置き換えるということだ。
アインシュタインは「光の速さで光を追いかけたらどうなるか」という問いをたてて、相対性理論を発見した。
ありきたりの「問題意識」しか持たなければ、ありきたりの解釈や分析しかできない。
すぐれた解釈や分析をしたいのなら、自分の「問題意識」に磨きをかけよう。新たな知見は、オリジナルな問いかけから、生まれる。
ポイント3「解釈や分析に正解はない」
この数字の分析や解釈には、英語や数学と違って、正解はない。
世の中の見方に唯一絶対の正解などないから。
むしろ、「正解」という視点からしか物事を見なくなったら、「考える」ことを放棄したといえる。
これを「思い込み」「一面的な見方」という。
物事には、すべて二面性、プラスとマイナスの両面がある。
一面だけ見ていては、大きな流れ、全体的な変化、問題の本質を見落としてしまう。
通念・常識・定説とは別の角度から世の中を見ると、全く違って見えてくる。
「考えても」、世の中の見方が変わらなかったら、今まで見えていなかったものが見えてこなかったら、それは本当の意味で「考えた」とはいえない。
これほど「問い詰めて」「考え抜いて」はじめて、数字は「真実」を語ってくれる。価値のある情報となる。
つい、厳しい話になってしまった。これまでの話は心構えとして、聞き流してくれてもいい。
同じ数字でも、読み方を変えると、世の中が違って見えてくる。今まで見えていなかったものが見えてくる。
「数字を読む」ことはなんて面白いのだろう、と思ってくれるとうれしいけど。
「はじめに」の要約
目には見えない世の中の動きを知るために、統計がある。
数字の変化は世の中の変化を反映している。問題意識をもって数字を読み、背後に隠れている情報を探り出そう。
そこには、軽い「驚き」があるはずだ。
Q1 東京の人口の統計
これは、東京の人口は何人か?という質問だね。
現在、東京の人口は1238万人だ。けれど、これだけを答えても、あまり意味がない。というのは、数字一つでは、何も語ってくれないから。
「他の都市と比較する」とか、「全体の中の割合をみる」とか、「時系列で変化を追う」とかして、
はじめて、数字から情報を引き出すことができる。
そこで、昭和25年から平成12年まで、戦後50年間の人口の移り変わりを調べてみよう。
まず、経済の動きとあわせて、お話しよう。というのは、人口と経済とは、「経済のしくみが発展すると、人口のしくみも変化する」という関係にあるからなんだ。
昭和25年(1950年)は、戦後の混乱が終わって、経済の回復が始まった頃だ。
この後、高度経済成長が約20年続いた。
この高度経済成長期には、農業で働くことより、会社や工場に雇われてサラリーマンとして働くことが一般的になった。
そして、重化学工業化が進み、3大工業地帯(京浜、中京、阪神)が太平洋ベルト地帯へと発展した結果、東京、大阪、名古屋は大都市に成長した。
昭和48年(1973年)に石油ショックがおこると、高度経済成長は終わって、低成長・安定成長に移り、平成不況の現在に至っている。
このように経済が変化したとき、人口はどう変化したかというと、…
高度経済成長期には、出生率はやや高めで安定し、また、地方(農村)から都市への激しい人口移動が続いた。
ところが、低成長期に入ると、出生率は低下し始め、また、地方(農村)から都市への人口移動も鈍化した。
数字を見ながら説明しよう。
人口の移り変わりについて、昭和25年(1950年)を100とした指数でみてみよう。下の表をみてね。

その前に、ちょっと注意。人口が増えたり減ったりする要因は、全国の場合、出生と死亡の2つあるけれど、
都道府県の場合、出生と死亡のほかに移動(転入と転出)があることに注意しよう。
なお、人口が増える要因として、このほか外国人もあるけれど、複雑になるし、割合も大きくないので、
今回は考えに入れないことにしよう。
社会経済の問題を考えるときは、小さな問題は切り捨てて、単純化するということが大切だ。
全国は、昭和25年(1950年)から昭和55年(1980年)まで、12〜15ポイントずつの安定した増加が続いた。
これは死亡率が低下し、また、出生率も安定していたからだ。
死亡率が低下したのは、経済が成長して、人々の暮らしが豊かになり、また、栄養水準や公衆衛生が改善したことのおかげだ。
出生率が安定していたのは、夫ひとりの給料で家族全員を養うことができるようになり、女性のほとんどが若いうちに結婚して専業主婦になることを望んだからだ。
けれど、昭和55年以後は、徐々に増加の伸びが小さくなった。
これは出生率が下がり、また、高齢者が増えたため、死亡率もかえって上昇したからだ
。
出生率が下がったのは、「都市に住む人口が増えて、核家族化や単身化が進んだ」こと、
そして、「経済の成長が鈍化して、女性も働かなければ食べていけなくなり、未婚化・晩婚化が進んだ」ことなどが影響しあった結果だ。
東京は、高度成長が始まった頃は、54ポイントも増加した。
全国の4倍以上だ。地方(農村)からの移動(転入)の激しさが分かるね。
しかし、その後は、28ポイント、3ポイントと次第に小さくなった。
これは、人口移動が緩やかになったから、ではない。
東京へ転入する人はかえって増えたのだけれど、それ以上に、東京から転出する人が増えたためだ。
この原因は、人口が過密になって、住宅難、交通難、環境汚染、ごみ問題などの「都市問題」が深刻化したため、
都内は住みにくくなり、東京で働いていても、隣接する県に住む人が増えてしまったからだ。
このことを「人口のドーナツ化現象」という。
このほか、「Uターン現象」といって、卒業や結婚をきっかけに、故郷へ戻る人が増えたことも影響した。
けれど、昭和55年以後は、石油ショックをきっかけに高度経済成長が終わってしまったから、
東京へ転入する人も少なくなってしまった。
なお、地方(農村)から都市へ人口が移動する理由は、「人口は経済活動が活発な地域、所得が高い地域へ移動する」という傾向があるからだ。
詳しくは、Q3でお話しよう。
秋田は、都市への移動(転出)が続いたこと、また、この移動によって、子どもを産む青年が少なくなってしまったことが原因で、人口減少が続いている。
「経済のしくみが変化すると、人口のしくみも変化する」という関係は、分かったね?
Q1の要約
経済が発展して、農業社会から工業社会へ、さらにサービス業中心の社会へと、経済のしくみが変わるにつれて、
「出生率も死亡率も高い社会」(多産多死)から「出生率も死亡率も低い社会」(少産少死)へと移っていく。
特に、工業の発達が激しくなると、経済が大きく成長するから、出生率は高いまま、死亡率が低下して、国全体の人口増加率は高くなる。
と同時に、大都市が形成されて、地方から大都市への人口移動が激しくなる。
このため、地方の人口増加率は低いのに対して、大都市の人口増加率は高い。
Q2 東京の人口増加によっておこった問題とその対策
これは、「過密」と「過疎」という地域格差だ。
まず、「過密」によっておこった問題のことを「都市問題」という。これには、
- 住宅が狭くなる、住宅の値段が高くなるという住宅問題
- 交通の渋滞や電車の混み方がひどくなるという交通問題
- 空気が汚くなる、騒音がひどい、日照が悪くなるという環境問題
- 業務地化が進んで、住民が減少する(人口のドーナツ化現象)という土地利用問題(つまり、都市の中にも過疎があるんだ)
- 地震などの災害時の被害が大きい防災問題
- 犯罪が多く治安が悪いという防犯問題
など、さまざまある。
このほか、都市に住む人口が増えると、核家族化や単身化が進むから、出生率も全国より低くなるという少子化の問題もある。
これらの問題は、相互に関連し合っており、また、どの都市にも共通している。
規模の大きい都市ほど、深刻になる。
これだけ問題があっても、それでも人口が増えるというところに大都市で住み働くメリットの大きさがうかがえるね。
対策
都市問題の対策はたくさんあるので、特に、人口過密を解消する対策をみていこう。
第1に、都心を分散した。たとえば、首都圏整備法により、新宿、渋谷、池袋を副都心として再開発した。
第2に、官庁やオフィス以外の、人口増加の原因となる施設を移転した。たとえば、工業等制限法により、大規模工場や大学を地方に移転した。
第3に、郊外に住宅地を開発した。例えば、新住宅市街地開発法により、多摩ニュータウンを開発した。
これらに加えて、マイカー時代が到来し、また、鉄道網が発達したことも、人口過密の解消につながった。
これらに伴って、郊外や隣の県の大型団地の開発などが進んだからだ。
次に、「過疎」。
具体的にみてみよう。お互いに、関連し合っているので、箇条書きにしにくいけれど。
- 過疎とは、人口が少ないということだ。人口が少ないと、お客さん(消費者)が少なく、
市場(しじょう)が成り立たないということを意味する。新しい店が増えることは余りなく、
逆に、商店、学校、医療機関が閉鎖されたりする。
- 産業が発展できないから、会社も少なく、雇用の機会も少ない。
よって、賃金は安く、所得の水準が低い。
- 青少年を中心とする人口が都市へ移動してしまって、高齢者が多く、まち(地域)に活気がない。
また、生活保護や福祉などの財政負担も大きい。
- 人口も会社も少ないから、税収も少なく、財政が苦しい。
水道、下水道、道路などの整備が遅れ、生活が不便である。
- 文化的な刺激がない。
対策
これもたくさんの対策があるけれど、最も重要なのは、地方の経済を活性化することだ。
経済活動が活発になれば、人口の流出を防げるし、また、人口を増やすこともできるからだ。
第1に、社会資本を充実すること、いわゆるインフラの整備だ。
インフラとは、産業や生活の発展の基盤となる公共施設のことで、具体的には、上下水道、道路、公園、堤防、用水、港湾などをいう。
全国総合開発計画を定めて、これらの施設をつくって、地方の生活を便利にし、交通の利便性を高め、また、地方の産業を発展させた。
第2に、地域間の所得移転だ。具体的には、地方交付税で、財政収入が少ない地方公共団体に対して、国が交付する財政援助資金だ。
このほか、「町おこし」、「村おこし」といって、住民が伝統産業や地場産業を振興することもよく行なわれる。
また、都市にはない、地方・農村ならでは魅力をアピールすることも行なわれる。
「豊かな自然がある、土地や住宅が安い、治安が良い、人間関係が豊か」など田舎暮らしのよさをPRして、
良質なアパートを供給したり、住宅建設費を助成するなどだ。
みんなの中には、「どうしてこんな遠まわしの方法をとるのだろう?
出生率を上げるなどして、人口を増やす方法を考えたらいいのに」と考える人もいるかもしれない。
でも、出生率を上げるということは、結婚や出産を強制することになる。
わが国は、民主国家だから、国家が個人の生活に干渉するべきではない。
せいぜい、子どもを産み、育てやすい環境をつくるという程度にとどめるべきだ、
と考えられているからだ。
そこで、人口を増やす方法の一つとして、現在、各地で行なわれているのが「町村合併」だ。
これまで「明治」「昭和」の2度、合併を進めてきた。今は3回目の合併運動が行われていて、「平成の大合併」といわれている。
有名なところでは、西東京市、さいたま市、南アルプス市、伊豆市、佐渡市が話題になった。
秋田県は、ないようだね。なぜないのか、興味があったら理由を調べてみるといいね。今、どの市町村も、高齢者が多くなって、福祉や介護などの仕事が急に増えた。
けれど、人口(住民)の規模の小さい市町村では、税収が少なくて、こうした需要をまかなうことができない。
市町村の規模が大きくなると、「財政のムダをはぶくことができる」「行政サービスの質を高めることができる」などのメリットがある。
そこで、合併を行なって、議員の数や、役場の職員の数を減らしたり、ホールなどの公共施設を共同利用したりすることで、経費を節約し、
そのぶんを新しい分野に振り向けようとしているんだ。
なお、念のため言っておくと、町村合併が行われたからといって、必ずしも「過疎」の対策とは限らないことに注意してね(逆は、必ずしも真ならず)。
けれど、こうやって、お互いの長所や欠点をあげても、あまり意味はない。
欠点があっても、それを上回る魅力があれば人は集まるし、欠点がなくても魅力がなければ人は集まらないのだから。
そこで、「暮らすなら、大都市と地方のどちらがよいか」と議論してみたらどうだろう?
Q2の要約
東京の人口増加によって、「過密」という都市に住みにくくなるという問題と、
「過疎」という地方の経済活力が衰退する問題がおこった。
近年、「過疎」を解決する方法の一つとして、「町村合併」が行われている。
Q3 人口増加の原因
東京が大都市に発展した推移については、Q1でみたね。
高度経済成長期において、農業で働くことより、会社や工場に雇われてサラリーマンとして働くことが一般的になったこと、
そして、京浜工業地帯が、太平洋ベルト地帯として、さらに拡大・発展したことなどが重なり合って、地方(農村)から東京へ、
人口が大量に移動したからだ。
こうした考えの進め方を、「歴史的に考える」という。
ここでは、視点を変えて、経済学的に、「なぜ人口が大都市に集まるのか?」「なぜ地方・農村から都市へ人口が移動するのか?」を考えよう。
大都市には、どんなメリットがあるのだろう?
個人の立場と、会社の立場とに分けて考えよう。
まず、個人の立場から考えてみると、さまざまなものがたくさん集っているから、ほしいものが必ずある。
たとえば、…
- さまざまな学校や職業がたくさんあるから、自分にぴったりの学校や職業が見つかる。
自分の能力を認めてくれる会社を選べる。人口が多ければ、それだけ消費の規模も大きいから、
給料の高い会社も多い。少しでも給料の高い会社、条件のいい会社を選べる。会社がたくさんあるから、
不況のときでも、地方に比べれば、仕事を探しやすい。
- さまざまなお店、楽しみ、文化、病院、福祉施設などがたくさんあるから、
自分の好みや条件に合ったものが見つかる。
- 交通も整っているから、好きなときに、どこへでも出かけていける。
ここで、データを確認してみよう。
平成12年における一人あたりの県民所得をみると、東京都は437万円、全国は310万円。
ちなみに、大都市を抱える大阪府は330万円、愛知県は350万円だ。秋田県は242万円だ。
また、東京都の会社数は約40万社で、全国265万社の15%を占める。
従業者は約659万人で、全国4047万人の16%を占める。
これは、他県から東京都へ通勤して働いている人も含む。
大阪府の会社数は約20万社、従業者は約335万人だ。秋田県の会社数は約2万社、従業者は約31万人だ。
東京都の経済活動が際立って大きいことが分かるね。
話を戻して、大都市のメリットについて、会社の立場から考えてみよう。
- さまざまな人がたくさん集まっているから、会社が求める能力や技術を持った人材を探しやすい。
人手不足のときでも、ただちに補充しやすい。
- 人がたくさん集まっているから、市場の規模も大きい。
たくさん売れるから、儲けが大きい(だから、社員の賃金も高くなる。)。
また、さまざまな人が集まっているから、需要(ニーズ)も多様で、専門的なお店でも成り立つ。
- 人がたくさん集まると、消費生活が高度化・多様化するから、娯楽、レジャー、ペット、美容、
ホテル、レストラン、文化、教育などのサービス業が発達する。
- たくさんの会社が集まっているから、どうしたら自分の会社の品物が売れるか、努力する。
競争し合っているから、新しい商品や技術が生まれるし、人々のニーズが変化しても、ただちに対応できる。
会社も活力があり、成長する。そして、東京で有名になれば、テレビや雑誌にも出て、宣伝効果がある。
- たくさんの会社が集まっているから、情報サービス業、広告業、コンサルタント業など、会社をお客とする仕事も成り立つ。
こうして大都市では、毎年、新しい産業、新しい会社、新しい学校が次から次へと生まれ、活力にあふれているから、
自分も大都市で活躍してみたいと人々に夢や希望を与える。
この結果、全国から、「さまざまな」技術、能力、アイディアを持った人が「たくさん」集まってくる。
この中で、「大都市においては、たくさんの産業、たくさんの会社が集まって、競争し合っているからこそ、成長があり、
活力も生まれる、だから、人々も豊かに生活している」という点が特に重要だ。
「競争」という言葉には悪いイメージがあるかもしれないね。どうしてこれほど大事なのか、身近な例で考えてみよう。
ここ近年、全国各地のラーメン店が、東京に続々と集まってきているのは、知っているね。なぜなのか、考えてみよう。
第1に、東京は日本で一番人口が多いから、市場の規模も格段に大きい。大量に売れるから、利益も大きい。
第2に、まちに1軒しかないラーメン店は、まずくても食べに来てもらえるから、工夫をしない。
けれど、たくさんのお店があると、どうしたら自分の店に来てもらえるか、と一所懸命考える。
たくさんのお店が集まって、競争し合っているからこそ、成長があり、そのお店にしかないおいしいラーメンが生まれる。
第3に、東京で有名になれば、テレビや雑誌にも出て、宣伝効果がある。そうすれば、加盟店も増え、会社や事業が拡大していく。
この3つのうち、第2の競争のおかげでおいしいラーメンができたというのが最も重要だ。
おいしいラーメンがあってこそ、第1と第3の理由も成り立つからだ。
この「競争が大事」という話は、Q8の失業対策にも出てくるから、よく覚えておいてね。
Q3の要約
さまざまな人や会社がたくさん集まっている大都市は、経済が発達していて、その規模も大きい。
人々の所得も、会社の儲けも大きい。生活水準も高く、いろいろと便利だ。さまざまなチャンスがたくさんある。
新しいものが次々と生まれる活力もある。
これらを求めて、人々は全国から大都市に移動してくる。
Q4・5 特に人口の増加している区はどこか。人口減少している区はあるか
50年前の昭和25年(1950年)と比べてみよう。下の表を見てね。
まず、人口が増加した区。
最も増加したのは、5.2倍に拡大した練馬区だ。次いで、2.9倍の江戸川区、2.3倍の板橋区、足立区が続く。
これらの区は、区部の外周部に位置している。このように、都市の外周部の人口が増えることを「郊外化」とか「ドーナツ化」とかいう。
マイカーが普及したこと、また、鉄道網が発達したこと、これらに伴って、郊外の大型団地の開発が進み、住宅地として発展したことが原因だ。
戦後に開発が進んだため、区画が整然とした近代的な住宅地であり、また、区部の中では、地価が比較的安いことなども特徴だ。
なお、このように人口増加の著しいまちは、概して、出生率が高く、また、高齢化もあまり進まないという傾向がみられる。
というのは、移動するのは、青少年が多いからだ。

次に、人口が減少した区。
最も減少したのは、0.3〜0.7倍に縮小した千代田、中央、港の都心3区。
これに、0.5倍の台東区、0.9倍の荒川区、墨田区、文京区が続いている。
これらの区は、中心部に位置している。
けれど、人口が減少した理由は、地域によって、少し違うんだ。
千代田、中央、港の、いわゆる都心3区の人口が減少したのは、業務施設(オフィス)が拡大したことや、
地価が高騰したことなどが原因だ。これを「人口のドーナツ化現象」という。
これに対して、台東区、荒川区、墨田区、文京区は、古くから下町として発展したため、木造住宅が密集しており、
また、都会的な刺激に乏しく、若い人はあまり住みたがらず、地価も比較的高いことなどが特徴だ。
このように人口が減少しているまちは、概して、出生率が低く、また、高齢化が進んでいるという傾向がある
(あくまでも「傾向」であることに注意)。
Q4・5の要約
概して、人口が増加した区は、区部の外周部(郊外)に、人口が減少した区は、中心部(都心)に
集中しているという傾向にある。いわゆる「人口のドーナツ化現象」であり、これは、都市の中心部では、
オフィスの開発が進み、外周部は住宅地として発展した結果である。
Q6 失業者の数
以上で、人口のお話は終わり。今度は、失業問題だね。失業者のことは、正確には「完全失業者」というけれど、
ここでは失業者と記すことにしよう。
さっそく下の表をみてみよう。

平成15年に、失業者は350万人、失業率は5%に達した。20人に1人が失業者だ。
中には、生活が苦しくなって、ホームレスになったり、家族がバラバラになったり、
または、自殺する人もいて、新聞で見ることも多い。
なお、失業率とは、「労働力人口のうちの失業者の占める割合」をいう。
分母は、総人口ではないことに注意しよう。
失業率=失業者÷労働力人口
=失業者÷(就業者+失業者)
ちなみに、総人口=労働力人口+非労働力人口
=就業者+失業者+非労働力人口
ところで、失業者とは、「企業の倒産やリストラ(社員の削減)で、職を失って、
生活に苦しんでいる人たち」と思っていないかな?少し違うんだ。
「本当は、正社員(フル・タイム就業者)になって家族を養いたいのに、求人がないから、
やむをえずパートに就いて、切り詰めて生活している人」や、「リストラされたけれど、
年齢制限のため、求人がないから、職探しをあきらめてしまった人」は、失業者には含まれない。
つまり、リストラされても、アルバイトをして1ヵ月に千円でも収入があれば、就業者になり、
職探しをあきらめると、非労働力人口になってしまう。
また、「求人はあるけれど、本当に自分が納得できる仕事ではないし、親と同居していて、
当面の生活には困っていないから、職探しを続けている人」は、失業者に含まれる。
これらのうち、「求人が少なくなると、失業者ではなく、非労働力人口が増える」という動きは、
この上の表から読みとれる。
対前年増減のところをみると、就業者の動きと失業者の動きが連動していないからだ。
つまり、「就業者が減って、失業者が増える」のなら、連動しているといえるけれど、
実際には、年によっては、就業者も失業者も、共に減っている。そして、非労働力人口が増えている。
あるいは、就業者がたくさん減ったのに、失業者はそれほど増えず、非労働力人口が大きく増えている。
それでは、失業者って、どんな人のことだろう?
失業者とは、
- 15歳以上で、現在は仕事に就いていない人のうち(職がない)
- あくまで仕事があれば、すぐ働きたいと思って(就業可能)
- 就職活動をしている(求職活動をしている)
という3つの条件を満たす人だ。
だから、ふだんは職がないのに、たまたま調査のときに、1週間のアルバイトに就いていれば就業者となり、
求職活動を行っていなければ、非労働力人口となり、失業者とならない。
おかしいと思うかな?これは、失業者の調査の目的が、「生活に困っている人が何人いるか」(国民の貧困度)ではなく、
「利用できる労働力のうち、何人が利用されないでいるか」(労働資源の有効利用度)を把握するためだからだ。
そのため、就業者の中にも、非労働力人口の中にも、「隠れた失業者」がいると考える人もいるんだ。
けれど、こうした人たちを調査しているわけではないので、正確な数字はつかめていない。
このほか注意したいことは、都道府県別にみるときの注意だ。
「東京の失業者」というときは、「東京に住んでいる人」だけ。
東京の会社をやめても、埼玉に住んでいれば、埼玉の失業者になってしまう。
だから、東京の失業者だけでは、東京の労働環境を知ることはできない。
少し難しいかな?ここでは、失業者は、必ずしも全員が、「働き口がなくて、生活に困っている人」というわけではないということを理解してくれればよい。
では、失業者のうち、「倒産やリストラにより職を失った人」は、どのくらいいるだろう?
下の表をみると、非自発的な離職のうち、「勤め先や事業の都合」により離職した人は、108万人だ。

失業者総数のうちの31%だ。意外と少ないと思った?
これは、景気が悪くなったからといって、会社はすぐリストラをするわけではないからだ。
では、景気が悪化すると、会社はどんな行動をとるのかというと、…
- 最初は、「労働時間」を調整する。労働時間と賃金は連動しているので、残業時間を減らせば、残業代を減らすことができるからだ。
- 次に、「賃金」を調整する。まず、一時金であるボーナスを減らす。
それでも、不況を乗り切ることができないときは、賃上げをやめる、さらには、賃下げに進む。
- ここまでしても経営がたちゆかないとき、「人員」を削減する。まず、主婦のパートや学生のアルバイトの人数を減らす。
次いで、新規採用を取りやめたり、退職者の再雇用を取りやめたりする。
そして、ついには、正社員を解雇する。
※ このように、なかなかリストラしないから、経営がさらに悪化して、倒産してしまった会社もある。
※ ちなみに、景気が回復したときも、企業の行動は同じで、すぐに求人したり、雇用を増やしたりせず、
はじめは残業を増やして、好景気に対応するんだ。
※ 会社が、こうした行動をとるのは、景気が悪くなったといっても、または、景気が良くなったといっても、
一時的な現象かもしれないし、長引くかどうか予見できないからだ。
このように、会社はすぐリストラをするわけではないのにもかかわらず、
「勤め先や事業の都合」により離職した人が108万人もいるということは、
それだけ深刻な不景気が長く続いているということが分かるね。
ところで、「職探しをあきらめたため、非労働力人口にカウントされてしまった人」は、どのくらいいるだろう?
さっき話したように、正確な数字は分からないけれど、おおよそのことは分かる。
下の表をみてね。


非労働力人口のうち、就業を希望している人は530万人で(2つあるうちの上の表)、そのうち、
「適当な仕事がありそうにもない」ことを理由に求職活動を行なっていない人は206万人だ(その下の表)。
206万人は大きな数字だけれど、この中には、親と同居している青少年や、主婦、年金で生活している高齢者など、
必ずしも「食べるのに不自由している」というわけでもない人も含んでいることに注意しよう。
このように、失業者の動きは、とても複雑なんだ。
だから、失業率をみるときも注意しないといけない。職探しをあきらめる人が増えると、失業者ではなく、
非労働力人口にカウントされて、見かけ上、失業率の上昇が緩やかになったり、失業率が低下したりしてしまうから。
逆に、失業率は、景気が好転し始めた時期にも上昇することがある。景気がよくなると、あきらめて中断していた職探しを再開する人が増えるから。
そこで、労働市場の実態をより正確に反映しているのは、失業率よりも、むしろ就業者、すなわち「職を持って働いている人数」の動向だと考える人もある。
これは、「毎月勤労統計調査」で調べている。けれど、皆さんの関心は、「職がなくて、生活に困っている人をどう救うか」にあるようだから、話を元に戻そう。
いずれにせよ、「失業者や失業率だけで、景気を読むのは難しい」ということは分かってくれたかな?
注意しておきたいのは、だから失業率を頼るなということではない。
完全な統計というものは存在しない。クセや短所をよく理解したうえで、使いこなせということだ。
では、失業率の話が出たところで、失業率をみてみよう。
全国、東京、秋田を比べてみると、概して、東京も秋田も、全国より高い。なぜだろう?東京と秋田は、似たところは、一見して、ないよね?
それに、東京のような大都市では、労働市場の規模が大きく、多種多様な職種があるので、失業者が全国より少ないと考えられるのに、なぜ?
東京は「若年のまち」といわれるほど、青少年が多いからだ。
青少年は、就職しても、すぐに企業を辞め、転職を繰り返す者が多い。
また、フリーターといって、時間に縛られる生活を嫌がり、正社員とならず、パートで生活する青少年が増えた。
パートは、契約期間が短いから、失業しやすい。
どうして、このような若者が増えたのかというと、親と同居しており、あるいは仕送りがあるから、食うに困らないし、
また、未婚で、扶養すべき家族がいないから、自分の納得できる仕事が見つかるまで、職探しを続けるという人が増えたからだ。
だから、「パラサイト失業」などと呼ぶこともある。こうした失業の結果、若者の経済状況が悪化し、結婚や出産を妨げ、
未婚化、晩産化、少子化を招いているとの指摘もある。
このように、失業者は、青少年に多いので、青少年の人口の割合が高い地域で、失業率は高くなる傾向がある。
一方、秋田の場合、青少年は少ないのに、どうして失業率が高いのだろう?
これは、建設業や製造業などの第2次産業に従事する人口が多い地域では、失業率は高くなる傾向があるからだ。
経済が豊かになると、第2次産業は衰えて、第3次産業が成長するようになる。これを「サービス経済化」という。
そのうえ、近年、アジア、特に、中国が急成長して、安い製品を日本へ大量に送り込むようになり、国内の製品は、価格競争で後れをとるようになってしまった。
このため、国内の工場を閉鎖して、人件費の安いアジアに移転するようになった。これを「産業の空洞化」という。
こうした原因が重なって、第2次産業に従事していた人は働く場所がなくなり、かといって、年齢制限や技術の違いなどにより、
新たな産業へ転職しにくいため、失業率は高くなったんだ。
Q6の要約
失業者は、平成15年現在で350万人いる。
しかし、この全員が必ずしも「働き口がなくて、生活に困っている人」なのではない。
失業者の中には、「自分が納得できる仕事ではないからと自発的に離職した人」が含まれ、
また、「求人がないからと職探しをあきらめてしまった人」は含まれない。
Q7 失業者は増えているのか
平成に入ってからの失業者の移り変わりを調べてみよう。
下の表の「総数」のところをみると、平成元年から4年までは140万人台で横ばいだったけれど、
平成5年から増え始めて、平成14年まで連続10年も増え続けた。
平成15年は、一見減ったように見えるけれど、これは、職探しをあきらめてしまった人が増えたためであることは、
さっき話したね。
また、バブルが崩壊したのは、平成2年なのに、失業者が増え始めたのは平成5年から、と時間がズレているのも、
なぜだが分かるね?景気が悪くなったからといって、会社は、すぐリストラをしないという話をさっきしたね。
一時的な現象かもしれないからだ。
話を戻して、平成4年は142万人だったのに、平成15年は350万人と、208万人も増えた。
いったい誰が失業化したのだろう?まず年齢別に調べてみよう。下の表をみてね。

平成4年と平成15年を比べてみると、特に増えたのは25〜34歳だ。平成4年の31万人から、平成15年の96万人と65万人も増えた。
次いで、55〜64歳が、平成4年の30万人から、平成15年の65万人と40万人も増えた。
このことは、逆にいえば、25〜34歳と55〜64歳が、失業しやすいということだ。青年の失業者が増加する理由は、さっきみた。
では、高齢の失業者が増加したのは、なぜか?
「年金の財政が破綻しかけている」というニュースは聞いたことがあるよね?
定年で退職しても、年金などの将来の不安があって、安心して隠居生活を送ることができないので、
まだ元気で働けるうちは、働きたいという人が増えた。けれど、求人には年齢制限があって、再就職が難しいからだ。
つまり、この場合、高齢化が失業者を増やしているという面があるんだ。
さて、今度は、失業者の増加を、求職理由別に探ってみよう。
下の表をみてね。
特に増えたのは「非自発的失業」だ。平成5年の41万人から、平成15年の146万人と105万人も増えた。
これに対し、「自発的失業」は、平成5年の69万人から、平成15年の113万人と44万人増えた。
なんだ、自発的失業は、44万人しか増えていないのか、と思ったかな?でも、これだけ深刻な不景気が長引いているのに、
自発的に失業する人が44万人も増えたということは、驚きだと思わない?これは、「日本が経済的に豊かになったから」と考える人もいる。

どういう意味なのかというと、さっき話したように、自分の納得できる仕事が見つからず、職探しを続けている人が増えたからだ。
このことを言い換えると、「生活が豊かになったから、自分の納得できる仕事が見つかるまでは、働かないで職探しを続けていられるだけの余裕ができた」から。
かつて、日本が貧しかった頃は、職がないということは、「飢え」を意味したから、これは大きな変化だ。
もっとも現在でも、ホームレスや自殺する人がいることも忘れてはいけない。いずれにせよ、失業しても、当面の生活に困らない人がいるため、失業問題は複雑なんだ。
さて、非自発的失業が105万人も増えたことに話を戻そう。
さっきみたように、会社はすぐにリストラできるわけではない。なのに、これほど増えたのは、倒産のためもあるけれど、それだけ深刻な不景気が長引いているからだ。
では、どうして、深刻な不景気が長引いているのだろう?
わが国の失業率が、かつて低かったのは、「終身雇用」という日本特有の雇用制度のおかげだ。
一度、会社に入ったら、景気が悪化しても、クビにせず、一生面倒をみてくれた。
けれど、バブル崩壊後は、経済が成長しなくなり、「低成長」「マイナス成長」を示すようになった。
このため、企業に余裕がなくなり、「終身雇用」制は終わろうとしている。このことを「雇用の流動化」が進んでいるという。
これは、企業の場合だけど、個人の場合も、「低成長」「マイナス成長」になると、所得は伸びなくなり、また、社会保障や年金などの老後の不安から、
消費を控えて、貯蓄に励むようになった。
これは、当然の経済行動なのだけれど、国民のみんなが一斉にそうしたから、景気はますます悪化した。この悪循環を繰り返しているから、不景気が長引いて、
企業の経営は不振になり、リストラや倒産が増えた。
このことを「合成の誤謬(ごびゅう)」とか、「デフレ・スパイラル」という。
「合成の誤謬(ごびゅう)」とは、1人1人の行動は正しいけれど、全員が行なうと、悪い結果になるという意味だ。
「デフレ・スパイラル」の「デフレ」とは「物価が下がる」こと、「スパイラル」は「らせん」のこと。商品の値段が下がると、会社の儲けが減ると、賃金が下がると、
家計が苦しくなりモノを買わないと、モノが売れないから、値段を下げる…という悪循環を繰り返すという意味だ。
けれど、失業が増えたのは、不景気だけが原因ではない。
さっきも話したように、経済が成長すると、モノや施設が充足して、第2次産業(製造業や建設業)は衰退する。
また、急成長しているアジアの安い商品に後れをとって、国内の産業が衰退する。だから、不況でなくても、求人は少なくなる。
さらに、元気な高齢者の増加や、女性の社会進出が、失業者を増やしている。

Q7の要約
失業者は、平成5年から増加傾向にあり、平成4年の2.5倍に増えた。
この原因は、「深刻な不景気が長引いている」ことのほか、「経済が発展して、サービス経済化により、
第2次産業が衰退した」こと、また「アジアの経済の急成長のため、日本の工場や会社が海外に移転している」
ことも影響している。
Q8 失業者増加への対策
たくさんあるから、特に重要なものを3つあげよう。
第1に、なんといっても、新しい雇用を創り出すことが重要だ。
雇用は、企業や会社が新しく設けられたとき、または、企業や会社が事業を拡大したときに創り出される。
さきほどみたように、非自発的な失業は、第2次産業が衰退したことや、アジアとの競争に後れをとったことに大きな原因がある。
だから、アジアや世界との競争に勝てる新しい産業を創り出すことが求められている。
これを「付加価値のある産業」をつくるという。簡単にいうと、他人にはマネのできない、特別な魅力をつくるということだ。
アメリカは、コンピューターのソフトや映画などのエンターティンメント、いわゆる「ソフト産業」が成長を続けている。
また、ヨーロッパは、長い伝統を誇るさまざまなブランド品が人気商品として輸出されている。
日本では、アニメや漫画、古典芸能、ナノテク、バイオ、ロボット、医療が期待されている。けれど、求人は高度な技術を持った人に限られていて、
新しい雇用をたくさん生み出しているとはいえない。かといって、これら以外に、魅力的な新しい産業をつくるのは難しくて、
今、「生みの苦しみ」の状態にある(たとえば、ベンチャービジネス)。
けれど、これができなければ、将来の日本に、新しい雇用は生まれにくくなってしまう。Q3で「競争は大事」という話をしたこと、思い出してね。
世界的な競争に勝つことができれば、会社や事業を拡大して、新しい雇用を生み出すことができるんだ。
第2に、景気を回復させて、家計の消費と、企業の投資・生産を活発化することだ。
景気回復には、金融政策と財政政策がある。まず、金融政策とは、金利を上げたり下げたりして、景気をコントロールしようという方法だ。
銀行の金利を下げて、お金を借りやすくし、企業がそのお金で、事業を展開する。すると、新たな雇用が生まれ、景気が回復するというわけだ。
こうして、「超低金利時代」となったけれど、金利は0%以下には下げられないから、今や、金融政策では効果を上げられない。
次に、財政政策とは、政府が国債で資金を集めて、公共事業などを行なうことをいう。公共事業などを行なうと、新たな雇用が生まれるばかりではなく、
波及効果といって、さまざまな産業の仕事が増えるから、景気が良くなるというわけだ。
しかし、今、国は財政難の大赤字で、膨大な借金だらけだ。だから、今や公共事業もできにくい。
第3に、ワークシェアリング。
これは「仕事の分け合い」という意味で、みんなで仕事を分け合って、クビになる人をなくそうという考えだ。
社員の数を減らさず、社員1人あたりの給料を減らすことで、総人件費を削減するんだ。
第1と2の対策は、経済活動を活発にして、新たな仕事を増やそうという発想だけど、このワークシェアリングは、仕事は現状のままで、今あるものを分け合うという発想だ。
「貧困は一部の人のとり過ぎのためだ。自分の賃金を少し犠牲にして、失業者を雇おう、豊かさを分かち合おう」という精神が基礎にある。
オランダの事例が有名。オランダの失業率は12%もあったけれど、このワークシェアリングによって、2%にまで下げた。
しかも、景気が回復して、経済が成長した。結果としてみれば、経済活動も活発になった。
これは、働く個人にとっても、企業にとっても、政府にとっても、良い結果が生まれたからだ。
働く個人にとっては、収入が増え、生活が安定し、将来の不安がなくなった。
企業は、人件費を節約できた。また、製品も売れるようになり、生産が拡大した。
政府は、失業保険の支払いが減り、財政負担も軽くなったし、国民の収入が増えたため、税収も伸びた。
日本では、こういう新しい働き方の研究はまだ始まったばかりで、日野自動車や三洋電機など、
一部の企業で実験的に試みられただけだ。
Q8の要約
新しい雇用を創り出すことが最大の対策であり、そのためには、世界的な競争に勝てる新しい産業を創り出すことが求められているものの、
今、「生みの苦しみ」の状態にある。そこで、ワークシェアリングが注目されている。
Q9 失業者を雇ってくれる会社の数
残念だが、これそのものの統計はない。というのは、労働力調査は、個人を対象に調査しているのであって、企業や会社を対象としていないからだ。
その代わり、有効求人倍率で、求職と求人の状況をみてみよう。
まず、言葉を説明しよう。職業安定所(ハローワーク)という職業を紹介してくれる所を知っているよね?
ここで、人を雇いたいという会社は求人の申し込みを、また、職を求めている人は求職の申し込みをするんだ。
求人倍率とは、求人数を求職数で割った数字だ。
では、有効求職(b)と有効求人(d)のところをみてほしい。
平成4年までは求人が求職を上回っていたから、有効求人倍率(b分のd)は1を超えていた。
けれど、次第に求職は増え始めて、平成14年には倍になってしまった。一方、求人はほぼ横ばいだ。
このため、有効求人倍率は下がり始めて、0.5になってしまった。

次に、就職率をみると、求人の1割前後しかいない。
つまり、求人はあるのに、就職は進んでいないことが分かる。
それにしても、1割は低すぎるよね?どうしてだろう?
これは、求人と求職の条件が一致しないからで、「求人と求職のミスマッチ」という。
年齢別に、理由を考えてみよう。
中高年が、失業している理由は、「求人の年齢と自分の年齢とが合わない」という理由が多い。中高年の賃金は高いから、
企業は高い賃金を支払ってまで、雇おうとは考えない。パートや若者を雇ったほうが安く済む。
これに対し、青少年が、失業している理由は、「希望する種類の仕事が見つからない」という理由が多い。
つまり、労働条件のよい仕事を求めており、自分に納得のいかない仕事なら働かないという人が多い。
Q9の要約
就職率は、求人の1割にすぎない。つまり、求人はあるのに、就職は進んでいない。
これは、求人と求職の条件が一致しないという、「求人と求職のミスマッチ」のためである。
以上で、おしまい。
ご質問があったら、ご遠慮なく、どうぞ。
回答者 東京都 総務局 統計部 調整課 統計解析担当係長 鈴木 誠 直通03-5388-2522
おことわり
以上の考えは、個人的見解であり、東京都の考えを代表するものではありません。