統計解析係 鈴木誠
みんなの質問は、「高齢化」だね。これから、「高齢化」について考えながら、世の中のしくみ(生活のこと、
経済のこと、社会のこと)が理解できるように、統計の正確さにこだわらないで、やさしく分かりやすく、お話しするつもりだ。
ノートをとらなくて済むよう、テキストを作ったので、一緒に読もう。時間は短いので、ここからポイントを取り出して、お話ししよう。
後でゆっくり読んでね。分からないことがあったら、その都度、質問してね。
はじめに 〜 数字を読んで世の中の変化を探り出そう
次の問題を、しばらくの間、考えてみよう。
戦後、日本の人口は、その数が激増したというだけではなく、そのなかみ(年齢構成)もまた激変した。データをみてみよう。
太平洋戦争が終わった5年後の昭和25年(1950年)における日本の人口は8320万人で、うち15歳未満は35%、65歳以上は5%、なんと人口の3分の1は子どもだった。
しかし、50年後の平成12年(2000年)の人口は1億2693万人、15歳未満は15%、65歳以上は17%と激しく変化した。
たった50年間で、人口が1.5倍に増えたと同時に、子どもの割合が半分以下に縮小し、高齢者の割合が3倍以上に拡大した。
-
どうして、これほど変化したのだろう?経済のしくみの変化が、どう影響したのか?
-
逆に、この人口の変化は、生活や経済にどのような影響を与えたのだろう?
-
人口について考えることは、どんな意味があるのだろう?
人口や経済など、世の中に関する問題は、とてつもなく大きいうえに、いろいろな要素が複雑に混ざり合っていて、
つかみどころがない。テレビで、その姿を見ることもできない。どのように考えたら、いいのだろうね。
ちなみに、50年後(2050年)の日本の人口は1億59万人、15歳未満は11%、65歳以上は36%と予測されている。
人口の3分の1が高齢者だ。
ポイント1「問題や現象の本質・核心を探り出そう」
世の中のできごとは、難しい言葉で「社会経済現象」というけれど、目には見えないし、複雑で、つかみどころがないから、
そのまま解こうとしても考えにくい。
たとえ、複数のできごとが複雑に重なり合っているそのすべてを明らかにすることが可能だとしても、情報は過剰になって役に立たない。
整理された情報が求められている。
そこで、すじみちをたてて、論理的に考えて、枝葉末節(しようまっせつ:細かなこと)は切り捨てて、突き詰めていく。
または、問題を小さく崩して、単純にしたり、場合分けをして、別々にひとつひとつ解いていく。
こうして、考えやすいように分解したり、展開したりして、「本質」「核心」「最も重要なもの」に接近(アプローチ)していく。
宝探しでは、小さなダイヤ10個より、大きなダイヤ1個みつけることのほうが価値があるように、世の中の分析では、小さな要素にこだわらず、
最も大きな要素を探り出そう。
ポイント2「自分自身の問題意識を持とう」
世の中のできごとを解くときも、自然現象の場合と同じく、まず「観察」から始める。
違うのは、世の中のできごとを考えるときは、「統計データ」を集めるということ。
つまり、「数字の意味することは何か」を分析したり解釈したりする。
けれど、この数字は、ぼんやり眺めていただけでは、何も語ってくれない。
リンゴが木から落ちるのをみても、ぼくたちとニュートンは、目の付け所が違った。
「月もまた、地球に落ち続けているのではないか」と、リンゴと月を結びつけた。
これは天才の発想だ。凡人のぼくたちは、どうして「その数字を知りたい」と思ったのか、
自分自身に問うことから始めよう。これを「問題意識」という。簡単にいえば、「問い」を自分の言葉に置き換えるということだ。
アインシュタインは「光の速さで光を追いかけたらどうなるか」という問いをたてて、相対性理論を発見した。
ありきたりの「問題意識」しか持たなければ、ありきたりの解釈や分析しかできない。
すぐれた解釈や分析をしたいのなら、自分の「問題意識」に磨きをかけよう。
新たな知見は、オリジナルな問いかけから、生まれる。
すぐに答えが見つからなくてもいいから、自分の疑問を大事にして、自分の頭で考え続けよう。
ポイント3「解釈や分析に正解はない」
この数字の分析や解釈には、英語や数学と違って、正解はない。
世の中の見方に唯一絶対の正解などないから。むしろ、「正解」という視点からしか物事を見なくなったら、「考える」ことを放棄したといえる。
これを「思い込み」「一面的な見方」という。
物事には、すべて二面性、プラス(よい)とマイナス(わるい)の両面がある。一面だけ見ていては、大きな流れ、全体的な変化、問題の本質を見落としてしまう。
通念・常識・定説とは別の角度から世の中を見ると、全く違って見えてくる。
人の考えをうのみにせずに、自分の頭で考えよう。「考えても」、世の中の見方が変わらなかったら、今まで見えていなかったものが見えてこなかったら、
それは本当の意味で「考えた」とはいえない。これほど「問い詰めて」「考え抜いて」はじめて、数字は「真実」を語ってくれる。
価値のある情報となる。
つい、厳しい話になってしまった。これまでの話は心構えとして、聞き流してくれてもいい。同じ数字でも、読み方を変えると、世の中が違って見えてくる。
今まで見えていなかったものが見えてくる。
「数字を読む」ことはなんて面白いのだろう、と思ってくれるとうれしいけど。
「はじめに」の要約
目には見えない世の中の動きを知るために、統計がある。数字の変化は世の中の変化を反映している。「問題意識」をもって数字を読み、背後に隠れている情報を探り出そう。
そこには、軽い驚きがあるはずだ。
Q1 東京の人口に対する高齢者の割合は?
人口に対する高齢者の割合のことを「高齢化率」という。平成12年(2000年)の時点で、東京の高齢化率は16%だ。
けれど、これだけを答えても、あまり意味がない。というのは、数字一つでは、何も語ってくれないから。
「他の都市と比較する」とか、「全体の中の割合をみる」とか、「時系列で変化を追う」とかして、はじめて、数字から情報を引き出すことができる。
そこで、全国、東京、秋田の高齢化率を比べてみると、平成12年(2000年)の時点で、全国は17%、東京は16%、秋田は24%だ。秋田は、人口の4分の1が高齢者だ。
そして、東京と秋田は8ポイントも違う。

上の表は、昭和25年から10年おきのデータだ。
昭和25年から昭和55年までをみると、それぞれの10年間に1千万人ずつ増えている。
30年間の長きにわたって、人口がこれほど増え続けたのは、日本の歴史を通して、このときだけ。
これは、「高度経済成長」によって、所得が毎年上昇したため、生活水準が向上したこと、技術の進歩等によって、
食糧の生産も増大したことなどにより、乳児死亡率が低下したこと、高齢者の寿命が延びたことなどが原因だ。
こうして「高齢化」が始まる。つまり、健康で、長生きできるようになったから、「高齢化」になったのであり、これは喜ぶべきことだ。
いわば「先進国」に仲間入りするための条件だ。
その後、高度経済成長が終わると、昭和55年から平成2年には6百万人、平成2年から平成12年には3百万人とだんだん少なくなった。
これは出生率が低下したためで、このことを「少子化」という。この少子化もまた、先進国に共通してみられる現象だ。経済が発展して、
生活水準が向上すると、出生率が低下するから。
この話が意味することは分る?現在、少子化で出生率が下がっているにもかかわらず、総人口が増え続けているのは、幼児死亡率が低下し、
また、寿命が延びたから。
よって、出生率が下がり続けると、いつかは、総人口が減少に転じてしまうということだ。
ところで、「生活水準が低い時代には、出生率が高くて、生活水準が高い時代になると、出生率が低くなる」というのは、なぜだろう?
生活水準が低い時代には、子どもは重要な社会的な役割を担っていたが、乳児死亡率が高かった。
当時、子どもが担っていた社会的な役割というのは、3つある。
-
1つめは、家を継ぐ存在としての子ども。生活水準が低い時代は、農業中心の社会だったから、先祖代々の土地を子どもが継ぐということが大切だった。
-
2つめは、労働力としての子ども。農業は、自営業だから、家内労働力に依存しており、子どもは労働力としても大切だった。
-
3つめは、老後の頼りとしての子ども。生活水準が低い時代は、社会保障制度はなく、親の病気や老後の面倒は、子どもに依存していた。
このように、子どもには重要な役割があったから、昔は「子宝」といって、大切にした。
けれど、生活水準が低い時代には、乳幼児の死亡率が高く、また、大人に成長しないうちに死んでしまうことが多かった。
だから子どもをたくさん産んだ。たくさん産めば、大人に成長するまで生き延びる子どもを持つ確率が高くなるから。
ここまで話せば、「経済が成長して、生活水準が高くなると、出生率が低くなる」ということは、説明しなくても分るね。
子どもの3つの役割が少なくなってしまったとともに、乳幼児の死亡率が低くなったからだ。だから、先進国に共通してみられる現象なんだ。
でも、日本の場合、これ以外にも理由がある。
日本の少子化のテンポは、世界でも最も早い水準だということは聞いたことがあるよね。なぜだろう。
日本には、特有の時代背景があるから。
高度経済成長によって、産業構造が変わり、それとともに家族構造も変わって、育児のあり方が変わっていったからだ。
詳しくみていこう。
戦前や戦後の高度経済成長が始まった頃の日本は、まだ農業社会だった。
農業は、人手をたくさん必要とするから、「三世代が同居する大家族」で、かつ、隣・近所で助け合わないと成り立たない。
夫ばかりでなく、妻も子どもも、祖父母も兄弟姉妹も、家族全員が働いた。母親も労働力だったから、育児も家族全員で行った。
その後、高度経済成長が始まると、会社や工場に雇われて「サラリーマン」として働くことが一般的になる。
親から独立して、都会へ上京して働くから、「核家族」が増える。夫は、家にいないから、妻が、働かずに家事や育児に専念するようになった。
こうして、「専業主婦」が登場した。「三食昼寝つき」といわれたけれど、これが可能だったのは、高度経済成長により、電化製品が普及したこと、
夫の給料が毎年アップし続けたから。
このため、「一億総中流」といわれた。
この高度経済成長は20年以上も続いたから、日本は「サラリーマン社会」になり、「核家族」中心になってしまった。
ところが、昭和48年(1973)の石油ショックによって、高度経済成長は終わる。
すると、夫の給料は頭打ちになった。この一方で、インフレにより物価が上昇し、教育費や住宅費は高くなった。
このため、妻も働かなければならなくなり、「夫婦共働き」が一般化した。
専業主婦でいられるのは、夫の給料が高い世帯だけになった。
それ以外の妻には、仕事、家事、育児とあらゆる負担が集中し、増大した。
これが昔だったら、大家族なので、家族の誰かが面倒をみてくれたが、核家族では、面倒をみてくれる人はいない。
農村なら、隣・近所で助け合うが、都会では、できない。
こうして、仕事、家事、育児とあらゆる負担が妻に集中した。
これが悪化した世帯では、離婚、児童虐待、家庭内暴力がおこり、社会問題にまで発展した。
こうした現実をみて育った子どもは、結婚や家庭に夢や希望を持てなくなってしまった。
このことは、未婚化、晩婚化を進ませる。 … 第1の理由。
また、経済成長がストップしたから、女性も働かなければ食べていけない。
日本は、まだまだ「学歴社会」だから、高い給料を得るには大学を卒業しなければならない。
つまり、22歳までは学校に行くから、このことも未婚化、晩婚化を進ませる。 … 第2の理由。
やっと会社に入り適齢期を迎えても、日本は、まだまだ「年功序列社会」だから、結婚や出産のため、いったん退職してしまうと再就職が難しい。
30歳過ぎた人を高い給料で雇うより、20代の若い人を安い給料で雇ったほうが、いいから。このことも、未婚化、晩婚化を進ませる。 … 第3の理由。
結婚しなければ、親から独立するきっかけがないから、親と同居し続けることになる。親と同居すると、日常的な身の回りの面倒をみてもらえるから、
なかなか親から自立できなくなる。
いわゆる「パラサイト・シングル現象」だ。これには、バブル崩壊後から続く不況により、経済的に独立できるほどの収入が得られないという事情も影響している。
このことも、未婚化、晩婚化を進ませる。 … 第4の理由。
このように、日本に特有な理由が重なって、少子化が加速している。
では、「日本は男性社会であり、仕事と子育てが両立しにくい社会」かどうか、データで確認してみよう。
次の表は、女子の労働力率を年齢別にみたものだ。

各国と比べて、日本の女子の労働力率が低いこと、30〜34歳は、出産のためガクンと下がることが分かる。
以上で、全国の人口の推移はおしまい。
(2)今度は、東京都だ。(1)の「総人口の推移」の表をみよう。
指数でみると、東京都は、昭和25年の20年後の昭和45年に、1.8倍に増えている。
全国に比べて、急激に増加している。これは、人口が増える要因として、全国の場合は出生しかないけれど、東京の場合は出生のほかに移動があるから。
東京は、日本の一番の「大都市」であるうえに、昭和25年から昭和45年は「高度経済成長期」だったから、たくさんの人が全国から移動してきた。
さっき「農村から都市へ移動する」という話をしたね。若い世代は、進学や就職の時期を迎えると、移動することが多い。これをデータで確認してみよう。
昭和60年の10〜14歳のところをみてほしい。
昭和60年の10〜14歳は、5年後の平成2年には、15〜19歳になる。
つまり、昭和60年の10〜14歳の集団と、5年後の平成2年の15〜19歳の集団は、同じ。
ところが、5年後の人数は増えている。平成7年の20〜24歳も増えている。
これは、進学や就職のために転入しているから。平成12年の25〜29歳は、逆に減っている。
これは、「Uターン現象」といって、卒業や結婚をきっかけに故郷へ戻るから。
なお、この表で、少子化も確認できる。
0〜4歳をみると、昭和60年には62万人いたが、平成12年には48万人と減ってしまった。

話をもとに戻して、「なぜ農村から都市へ人口が移動するのか」を考えてみよう。
さっき、高度経済成長になると、会社や工場に雇われてサラリーマンとして働くことが一般的になるから、
都会へ上京して働くものが増えるという話をしたね。なぜだろう。
このことを、今度は、別の視点から考えてみよう。
-
若い人は、進学や就職のため、上京するという話をしたね。
大都市には、多種多様な学校や職業がたくさんある。
だから、自分にぴったりの学校や職業が見つかる。
-
しかも、給料も高い。なぜだろう。人口が多ければ、それだけ多くの人が経済活動を営み、また、消費が増えるので、経済規模も大きい。
平成12年における東京都の総生産額は85兆円で、全国510兆円の17%を占める。
数字が大きすぎるので、一人あたりの県民所得で比べてみよう。
東京都は437万円、全国は310万円だ。ちなみに、大都市を抱える大阪府は330万円、愛知県は350万円だ。
-
そのうえ、大都市では、毎年、新しい産業、新しい会社、新しい学校が次から次へと生まれる。
なぜだろう。身近な例で考えてみよう。ここ近年、全国各地のラーメン店が、続々と、東京に集まってきているのは、知っているね。
なぜ、東京に全国のラーメン店が集中するのか、考えてみよう。第1に、東京は日本で一番人口が多いから、市場の規模も格段に大きい。
大量に売れるから、利益も大きい。第2に、たくさんのお店があると、どうしたら自分の店に来てもらえるか、と一生懸命考える。
たくさんのお店が集まって、競争し合っているからこそ、成長があり、そのお店にしかないおいしいラーメンが生まれる。
第3に、東京で有名になれば、テレビや雑誌にも出て、宣伝効果がある。そうすれば、加盟店も増える。
すると、雇用を作り出すことができる。
この中で、「大都市においては、たくさんの産業、たくさんの会社が集まって、競争し合っているからこそ、成長があり、活力も生まれる、
だから、人々も豊かに生活している」という点が特に重要だ。
話を戻して、昭和45年からは、増え方が全国よりもゆっくりになった。
高度経済成長は、続いているのになぜだろう。これも、いくつかの原因が重なった結果だ。
-
人口が集中し、過密になると、住宅難、交通難、環境汚染、ごみ問題などの「都市問題」が深刻化する。
なかでも住宅難、特に「地価の高騰」が最大のネック。住宅地の地価を比べてみよう。
平成13年の公示地価では、千代田区1,339千円/u、特別区全体454千円/u、都344千円/u、全国142千円/u。
千代田区は、全国の9倍だ。このため、都内は住みにくくなり、郊外や隣接する県に住むようになってしまった。
このことを、「都心の空洞化」とか「ドーナツ現象」という。これが、人口が多いことのデメリットだ。
-
高度経済成長が長く続いて、地方においても産業が発達したので、上京する人が少なくなったから。
また、「Uターン現象」といって、卒業や結婚をきっかけに、故郷へ戻る人が増えたから。
地方も好景気で仕事があったことが背景にあった。
-
大都市においては、未婚率の上昇が著しいため少子化のテンポがはやいからだ。
以上で、1はおしまい。遠回りをした意図を分かってくれた?
「少子化」「高齢化」ともに生活水準が上昇した結果であること、特に「少子化」の直接の原因は出生率の低下、
「高齢化」の場合は死亡率の低下だけど、その背景には、「経済が発展し、産業が構造的に変化して、これに伴って、
家族のあり方が変化したこと」、そして、「日本は、仕事と子育てが両立しにくい社会であること」が影響しているということを理解してくれた?
もし面白いと思ったら、明治時代に産業革命がおこって近代化が始まったことから学んでほしい。
また、海外の事例も学んでほしい。
今、注目されているのはスウェーデンだ。
国土は日本の1.2倍の広さなのに人口は14分の1(区部とほぼ同じ)。
しかし福祉は世界最高の水準だ。社会保障の支出は日本の8倍。
2 年少人口と老年人口を調べよう!
年齢別人口の割合も、総人口と同じく、「時期」や「地域」によって異なる。
「都は、全国と比べて、どんな違いがあるのか」を統計で確認して、その理由を考えてみよう。
その前に。
年齢別に人口を調べるときは、0〜14、15〜64、65〜歳の3区分でみる。
なぜ、この3区分でみるのかというと、働いている人と働いていない人の割合をてっとりばやく知りたいときに便利だから。
世界では、15歳で働き始めるというのが一般的だ。念のため、15〜19歳の労働力率をみると、日本は17.4%だが、アメリカは53.0%、
イギリスは63.9%、スウェーデンは29.0%(平成12年)。
また、5歳きざみ、10歳きざみと細かく分けると、比較や分析が面倒になるから。
0〜14歳を「年少人口」、15〜64歳を「生産年齢人口」、65〜歳を「老年人口」という。
年少人口が総人口に占める割合が小さくなることを「少子化」、老年人口が総人口に占める割合が大きくなることを「高齢化」という。
(1)東京と全国の違いをみよう。
東京は、全国に比べて、少子高齢化の程度が大きいのか、また、そのテンポは早いのか、調べてみよう。

全国をみよう。
昭和35年をみると、0〜14歳は30%で、65〜歳は6%だ。
戦後は、年少人口の割合が高く、かつ老年人口の割合が低かった。
つまり、日本が経済力を回復したころ、若い労働力が豊富である一方で、年金や医療等にかかる社会の負担が少なかった。
このことは、経済の発展に幸いした。
でも、このことは、裏をかえせば、乳幼児死亡率が高く、寿命も短かったということだ。
当時の乳児死亡率は30.7で、現在のエジプトとほぼ同じだ。
平均寿命は男が65.32歳で、当時の先進国と比べると、最低のレベルだ。
40年後の平成12年の割合をみると、生産年齢人口(15〜64歳)はほぼ横ばいなのに、年少人口(0〜14歳)は半分に縮小し、
老年人口(65歳以上)は3倍に拡大した。

東京都をみよう。
0〜14歳の割合は、昭和35年の時点で、全国より7ポイントも小さい。
出生率が低いからだけど、その原因は現在と違って、当時の東京には、若い男子の出稼ぎが多く、結婚のときには故郷へ帰るものが多かったから。
これを「Uターン現象」という。このため、昭和35年の15〜29歳をみると、男子は203万人、女子は163万人で、女子を100とすると男子は125だ。
平成12年における0〜14歳の割合は、全国と3ポイントの差に縮んだ。
でも、3ポイントも差があるという見方もできるね。なぜ出生率が低いのか。
この原因は、§1でみた全国共通の原因に加えて、東京の場合、「高学歴の女子が多いから、少なくとも22歳までは結婚しない」、
また、「女子に向いた職業が多いから、結婚せず働き続けたり、結婚しても働き続けて、子供を生まなかったり、生む時期を遅らせたり、
生む数を減らしたりなどしている」ことも考えられる。
65〜歳の割合も、全国より小さい。
しかし、昭和35年と平成12年を比べると、全国は3倍に拡大したのに対し、東京は4倍に拡大した。
この原因は、死亡率の低下、平均余命の延伸(医療機関の整備)といった全国共通の原因に加えて、東京においては年少人口の構成比が急激に縮小している
(分母の伸びが小さい)ことも影響している。
(2)少子高齢化の影響をみよう。
次に、高齢化と少子化が家庭生活や社会経済に与える影響について、考えてみよう。
まずは、「高齢化」から。
「高齢化」の一番の問題は、高齢者負担が増大することだ。たとえば、「医療財源が足りない」、「年金財源が足りない」、「介護サービスが足りない」という需要過剰になる。
ところで、この3つの例は、視点が違うことに気がついた?
最初の2つは、社会的・国家的な問題点だ。3つめは、身近な家庭の問題だ。
これを、それぞれ「マクロの視点」「ミクロの視点」という。これは、社会経済現象の問題点を探すときに用いる道具でもある。
「高齢化の問題点はなにか?」と聞かれたら、まず、マクロの視点から、「社会全体に与える影響は何だろうか」、つぎに、ミクロの視点から、
「身近な生活に及ぼす影響は何だろうか」と問題を展開していくんだ。
このように問題を場合分けすると、具体的なイメージで考えやすくなる。
例えば、社会全体に与える影響として、「養う若い世代が減り、養われる老いた世代が増えるから、年金や医療のための財源は確保できなくなる。
どうしよう?」とか、「寿命が延びると、貯金を取り崩さなければ、食べていけなくなる。
よって消費を切り詰めるから、消費市場が縮小し、経済が衰退する。どうしよう?」とか。
また、身近な生活に及ぼす影響として、「自分の親が寝たきりになったら、その面倒は、どうしよう?」とか、
「税や保険料の負担が大きくて、給料の手取りが少ない。とても結婚できない。どうしよう?」とか。
次々と問いが浮かんでくる。こうすれば、考えやすくなるね。
これらの質問については、後で、ゆっくり考えよう。
ここでは、「高齢社会とは、どのようなものか」をイメージしてみよう。
昨年の敬老の日の標語は、「みんなで支える明るく豊かな長寿社会」だった。「明るく豊かな」という言葉に注目。
この言葉は、高齢社会には、「暗い」「活力がない」「沈んでいる」というマイナスイメージがつきまとうことをいみじくも表現しているね。
きみたちも、ぼくのような40歳を過ぎた人をみると、人生の可能性が失われていて、何も楽しいことはない、哀れな存在だ、
自分もあんな人間になるのかと情けなく感じているかもしれないね。
でも40歳の人間には、その年齢の楽しさがある。
年をとると、歴史、地理、文化の知識も理解力も増す。
すると、若い頃に面白いと思わなかったプルーストやドストエフスキー、モーッアルトのオペラ、キリスト絵画、ヨーロッパの町並みに、
深い意味を感じとることができるようになる。
それに、年寄りには活力や可能性が失われているとはいえない。
ゲーテがファウストを書き上げたのは74歳から82歳の死の直前までだ。
シュリーマンは49歳のときにトロイア発掘を始めた。
伊能忠敬は、50歳を過ぎてから江戸に出て天文学を学び、55歳から71歳の間に全国測量を行い、日本地図を作った。
次に、「少子化」だ。
「少子化」の一番の問題は、単に「子どもが少なくなる」ということにつきるではなく、「総人口や就業人口が減少してしまう」ことだ。
現時点では、子どもが少なくなったという段階で、「産婦人科や小児科の医者が余った」「幼稚園が余った」「学校の先生や校舎が余った」という供給過剰が問題になっている。
けれど、この少子化がさらに進むと、人口が減少し始めてしまう。予測では、2100年には日本の総人口は6400万人と半分になる(それでもスウェーデンの約8倍だ。)。
人口が減ると、家庭生活や社会経済は、どんな影響を受けると思う?
さっきと同じく、ミクロの見方、マクロの見方で考えてみよう。
ミクロで考えてみよう。人口が減ると、通勤地獄や交通渋滞がなくなる。
また、住宅の需要も少なくなるから、地価が下がって、都心にも快適に住めるようになり、文化的に豊かな生活が送れるようになる。
就業人口が減少するから、女性の社会進出も進む。…
マクロで考えてみよう。人口が減ると、モノを買う人が少なくなるから、消費市場が縮小し、経済が衰退する。
成長する産業は、高齢者向けの医療と介護サービス、整形外科のほか、ペット産業だけで、ほかは衰退するから、倒産が増加し、失業者が増え、不況が深刻化する。
就業人口が減少するから、税金や社会保険料を払う人が少なくなり、財政も悪化する。…
うーん?社会経済が悪化するのに、生活が良くなるなんて、矛盾しているよね?それとも、人口減少社会には、プラスとマイナスの両面があるのだろうか。
実際、「人口減少社会」や「高齢社会」が、どんなものなのか、その予測は、人によって様々だ。
問題は、どの予測が正しいか、ではない。
構造変化を正確に予測することは難しい。だから、最悪の事態になっても、対応できるよう複数のシナリオを用意しておくという発想が必要だ。
そうは言っても、「現在の生活水準を維持できるかどうか」は気になる。
こういうときに、歴史を紐解こう。すると、人口の減少が経済の衰退を招くとは限らないということが分かる。
1340年にイタリア半島には930万人の人口があったけれど、160年後の1500年には550万人と、約4割も減少してしまった。
けれども、人類史上、もっとも輝かしい時代であるルネッサンスが花開き、ヴェネチアやフィレンツェの商工都市が発達した。
また、人口減少社会は、日本が過去に全く経験したことのないできごとかというと、そうでもない。
江戸時代の後期には、人口は増減を繰り返していた。
関ヶ原の戦いのあった1600年頃には1200万人だったが、8代将軍の吉宗の1720年頃には3100万人と急激に増えた。
これは、全国的に新田開発が行われ、農産物の生産量が飛躍的に増えたからだ。これを「大開発の時代」といい、いわば高度成長期だ。
けれど、この1720年から幕末1850年頃までの間は、3000万人を割ったり、3200万人に増えたりと停滞していた。
この理由は、噴火、地震、冷害などの自然災害と飢饉の頻発や、耕地面積が増えなかったこと、このほか、女性が、商家や武家へ奉公に出るなど、
結婚前に仕事に就くようになったので、晩婚化と少子化が進んだから。
このあたりは、現代とそっくりだと思わない?
こうして、総人口の増加がストップした結果、総人口中の高齢者の比率が上昇した。
商人は40代で隠居した(松尾芭蕉は36歳で、井原西鶴は33歳で隠居した)。
隠居して道楽に生きる人々が増えた結果、社会が落ち着いて、成熟した大人の文化が育ち、俳諧、浮世絵、歌舞伎などのいわゆる「町人文化」が花開いた。
この江戸の町人文化は1860年代のヨーロッパに「ジャポニズム」を引き起こすほどの影響力を持っていた。
以上で、2はおしまい。
ここでは、少子化や高齢化が、身近な家庭生活、経済成長、国家財政などに、どのような影響を与えるか、考えてみたけど、難しかったね。
「ライフサイクルの転換が求められる時代がやって来る」ということを理解してもらえればいい。
次は、視点を変えて、家族構成(世帯)の移り変わりを調べてみよう。
3 家族(世帯)の移り変わりも調べよう!
1で、「経済が成長するとともに産業の構造が変化して、同時に、家族のあり方や世帯構造も変化した」という話をした。
戦前や戦後まもない頃は、まだ農業社会が中心だったから、「3世代が同居する世帯」が多かった。けれど、高度経済成長により、
サラリーマン社会に移ると、「核家族の世帯」が増えた。しかし、高度経済成長が終わると、未婚、離婚、死別が増えて、
「単身の世帯」が増えていくということだったね。このことを、もう少し詳しくみていこう。

ここで、データをみるときの注意を。
-
戦前や戦後から調べたいけれど、この頃の世帯に関する詳しいデータはないので、昭和35年からだ。
高度経済成長が始まって10年後だ。
-
また、「3世代同居世帯」がないけれど、これは「その他の親族世帯」だ。
厳密にいうと、「3世代同居世帯」は「その他の親族世帯」の一部だが、ここでは、変化の傾向をみたいだけだから、
細かいことは気にしない。
-
また、「非親族世帯」があるから、総数とは一致しない。
まず、「その他の親族世帯」の割合をみると、昭和35年には30.5%を占めたのに、40年後の平成12年には、半分以下だ。
でも実数でみると、平成12年に635万世帯で、著しく減ったとはいえない。「その他の親族世帯」は農村部に多くみられるけど、
農家は、昭和35年の606万戸から平成13年の229万戸と激しく減少しているのに、なぜだろう。
この理由は、病気になった親、配偶者と死別した親が、子どもと同居するというケースが増えたためだ。
次に、「核家族」だ。
高度経済成長によって、農村の次男三男が都市へ移動した結果、都市では核家族化が進み、昭和60年には6割にも達した。
このときがピークで、近年では低下している。
また、核家族のなかみも変化したことに注意しよう。かつては「夫婦と子どもの世帯」が多かったけれど、「夫婦だけの子どものいない世帯」が増えている。
数字で確認しよう。「夫婦と子どもの世帯」は、昭和35年に849万世帯だったが、昭和60年に1519万世帯と倍近く増えた。これがピークで、平成12年には1492万世帯と減少した。
それほど減少していないと思ったかな。その原因は、パラサイト・シングルが増え始めたから。
「夫婦のみの世帯」は、昭和35年に163万世帯だったが、一貫して増加を続けて、平成12年には884万世帯と5倍以上に増加した。これは、お年寄り夫婦が増えたことが原因だ。
核家族にかわって、「単独世帯」が急激に増え、平成12年には4世帯に1世帯は単独世帯になった。
この原因は、さっき未婚と離婚の増加、高齢化による死別の増加といったけど、そのほか、単身赴任が増えたことも一因だ。
深刻なのは、寿命が延びたため、「単独高齢世帯」、いわゆる「お年寄りの1人暮らし」が増えていることだ。都の場合、「単独高齢世帯」は39万世帯で、
高齢者のいる世帯のうちの28.4%を占める。全国は20.2%だ。
このように、次第に家族関係が緩やかになったことを「家族の個人化」という。これも、少子高齢化社会の一側面だ。
なお、東京都については、統計をのせておくから、みんなで考えてみよう。

4 保育所の児童数を調べよう!
さっき、少子化により、「学校が余っている」という話をしたね。そうであるなら、保育所も余るはずだよね。データで確認しよう。
本当には、都道府県別、市町村別にひとつひとつ丁寧に調べないといけないけれど、大雑把に全国レベルでみてみよう。

保育所数も入所児童数も、昭和45年から昭和55年に急増した後、ほぼ横ばいで推移している。
少子化が進んでいるのだから、「実質的にみれば、保育所の利用は拡大している」ことになる。
この原因は、働く母親が増えているから。女性の社会進出が進んでいることのほか、不況で家計を助けるために共働きせざるを得ないという事情もある。
このデータは、「認可保育所」といって、国の設置基準による保育所だ。
このほか、東京都では、都独自の基準による「認証保育所」を設置して、「0歳児から預かる」「駅前に設置する」「午前7時から午後8時まで13時間預かる」など、
認可保育所以上のサービスを行っている。平成13年8月にスタートして、2年後には167も設置された(平成15年8月1日現在)。
利用状況のデータは公表されていないけれど、大いに利用されているという話だ。少子化でも、アイデア次第で、ニーズは生まれ、産業は育つ。
ところが、こうした保育所の拡大に対しては、批判もある。
便利な保育所が増えると、「預けた方が楽」という風潮が生まれる。家庭でさまざまな困難を乗り越えることで、きずなや愛情が深まるという要素が見失われるという指摘だ。
すべて物事には、プラスとマイナスの2面性があるという話を思い出してね。
5 教育人口を調べよう!
続いて、少子化によって、「生徒数が減っている」かどうか、データで確認してみよう。
これも全国のデータだ。
大学生以外は減っていることが分かる。大学生の年齢層である19〜22歳の人口は、減少傾向にあるのに、大学生が増えているのは、進学率が上昇しているから。
大学への進学率をみると、昭和55年(1980)の26.1%から、平成12年(2000)の39.7%に上昇した。
いずれにせよ、「生徒数が減っている」という話の裏はとれた。なお、「先生や校舎が余っている」という統計は後でみようね。

でも、問題はこれだけではない。
「勉強をあまりしなくても、高校や大学に入れるようになってしまう」という問題が生じている。
その理由は、高校や大学も、産業という面があるから、利用者数を維持して、利益を上げなければならないから。
このため、「能力を充分に伸ばさないまま社会に出てしまう若者が増えるから、日本社会の活力は低下してしまう、
日本の科学技術は今、世界でトップクラスだが、もはやトップの地位を維持できないだろう」と考える人もいる。
みんなも、「少子化が学校教育に与える影響」を考えてみてね。
なお、東京都の場合、全国と違って、移動があるから、生徒数が減ったとしても、それは少子化が原因なのか、
移動の減少が原因なのかを考慮しなければならないことに注意する必要がある。
これは、教育人口だけではなく、全部にいえるから注意してね。
6 就業人口と産業構造を調べよう!
続いて、「就業者においても少子高齢化が進んでいる」のかどうか、調べてみよう。
それに、さっき「経済が成長すると産業の構造が変化する」という話をしたね。
これも、統計データで確認しよう。
(1)まず、年齢別に調べよう。

全国をみると、昭和35年は、人口も就業者も、その構成比は、若年世代が多く、高齢世代が少ない。
しかし、平成12年には逆転する。特に、就業者の場合、40〜54歳、55歳以上ともに、10ポイント上がったのに対し、
15〜24歳は15ポイント、25〜39歳は5ポイント下がった。
もっとも注意しないといけないのは、15〜24歳が15ポイント下がったこと。
これは、少子化により若い人口が少なくなったことだけが原因ではなくて、「高学歴化により高校や大学への進学者が増えたこと」や、
「近年の不況により就職が困難になったこと」も原因だ。
また、55歳以上が10ポイント上がった(10ポイントしか上がらなかった)こと。
これは、サラリーマンには定年退職があるから、人口構成において上昇したレベルほどには、上昇できないから。
なお、会社員でも役員や、自営業には、定年退職はないことに注意。
東京をみよう。昭和35年の15〜24歳が全国より10ポイントも多く、55歳以上が5ポイントも少ない。
これは、高度経済成長期で人手不足のため、地方から中学や高校の卒業生を集めていたから。
しかし、40年後の平成12年には、全国とあまり違わなくなってしまった。注意したい点をいくつか。
15〜24歳は、人口では東京のほうが多いのに、就業者は少ない。これは、高学歴化のため。40〜54歳は、
人口も就業者も、東京は少ない。これは、住宅難のため、都内にマイホームを購入できず、まわりの県で購入した(他県に転居した)から。
以上、「就業者の高齢化」は確認できたけど、「就業者の少子化」については、不況による就職難や高学歴化の影響と重なったため、
はっきりとは確認できなかった。
では、就業者が高齢化すると、どのような問題が生じるのだろう?「年功序列型賃金性」のため、中高年の就業者の賃金は高い。
そして、一度雇ってしまうと、簡単には解雇できない。だから、景気が悪化すると、新規採用をとりやめることになる。
若い世代の失業やフリーターが増加する原因の一つになっている。
(2)次に、産業別に調べよう。

昭和35年と平成12年の全国を比べてみよう。
40年間の日本経済の変貌のすさまじさが分かる。昭和35年に就業者の33%を占めていた第1次産業は平成12年には5%にすぎない。
一方、第3次産業は、38%だったが、64%を占めるまでになっている。
経済が成長すると、産業構造が変化するのは、なぜだろう?
-
第1次産業、特に、農業は、土地の制約があるから、生産量には限界がある。
だから、技術が進歩すると、人手は不要になってしまう。
-
経済が成長して、所得が増えても、食料消費には限界があるから、消費の割合でみると、食料の消費の割合は低くなり、工業製品やサービスへの消費の割合が高まる。
こうして、人々の需要が変化するから、主流となる産業は、第1次産業から第2次産業へ、さらに第2次産業から第3次産業へと移る。
これを「産業構造の高度化」とか、「経済のサービス化」という。
東京をみよう。
昭和35年の第2次産業は、全国より高い。これは、京浜工業地帯が発達していたから。
このため、さっきみたように、当時は、男子の割合が高かった。
その後、平成12年に大きく衰退したのは、産業構造が変化したこと、都内の工場が地方へ移転したため。
第3次産業も、昭和35年に、全国より高い。これは、大都市のため、飲食店やサービス業が早くから発達していたから。
平成12年に大きく衰退したのは、産業構造が変化したこと、都内の工場が地方へ移転したため。
このため、近年、女子の割合が高くなった。
つまり、東京においては、サービス産業の割合も全国を上回って増加している一方で、製造業の割合が全国を上回って減少し、
産業構造が大きく転換している。
まとめてみよう。
少子高齢化が進むということは、「消費者の構造」が大きく変化するということだ。
たとえば、新しい商品を買う若い世代が減り、介護や医療のサービスを求める老いた世代が増える。
だから「産業構造」も大きく変わる。ということは、「雇用の環境」も大きく変わる。
きみたちの就職戦線は大きく様変わりしているだろうね。
7 税金と財源を調べよう!
なぜ、「税金」なのか、分かるよね?
「少子化で納税者が減っている、景気が悪いため税収が減っている、そのため医療や年金などの財源が不足している、
にもかかわらず、高齢化のため年金や医療費などの社会保障に使うお金が増えている」という話をするためだ。
では、表をみてみよう。

税は、徴収先によって、「国税」と「地方税」に分かれる。表には、国税のデータを載せた。
また、徴収方法によって、「直接税」と「間接税」に分かれる。
直接税には、所得税、法人税、相続税などがある。表には、所得税と法人税のデータを載せた。
平成2年と12年を比べると、税額が減少した。これは、景気の悪化のため税収が減少したことや、景気回復のため減税を行ったことが原因だ。
間接税には、消費税、物品税、入場税などがある。表には、消費税のデータを載せた。平成2年と12年を比べると、景気の悪化にもかかわらず、
税額が増加したことが分かる。これは、消費税は景気の影響を受けにくいためでもあるが、税率が3%から5%と引き上げられたこと(平成9年)が原因だ。
次に、「財源」のことをおさらいしよう。
年金や医療費などの社会保障に使うお金のことを「財源」というけれど、これは、税金(国庫)と社会保険料とで、まかなっている。
国民所得に占める税金と社会保険料の割合のことを「国民負担率」という。
この推移をみると、昭和35年(1960)には22.4%だったが、昭和45年(1970)には24.3%、昭和55年(1980)には31.3%、平成2年(1990)には38.8%、
平成12年(2000)には37.2%に達した。
単純にいうと、所得の4割は、税金と社会保険料にとられてしまう。これでも、財源は不足しているから、今後、高齢化が進めば、この国民負担率はもっと上昇する。
このことが新聞記事になると、かならず批判が出る。
けれど、一つの数字だけをみて、高いか低いかを論じても意味がない。
数字は、過去のデータや他の県と比較しなければ判断できない。
他の国と比較してみよう。福祉の充実したヨーロッパの国民負担率は、ほとんど50%を超えている。
中でもスウェーデンは70%だ。社会保障を通して、所得の再配分が適正に行われているから(国民に還元されているから)、
国民から不満は出ていない。
それでは、財源をどのようにして確保するか?
まず、「社会保険料の引き上げ」について、検討してみよう。
サラリーマンや公務員などは、税金と同じく給料から天引きされるけど、この働く人々は、少子化により今後、減少してしまう。
また、自営業などの人は、天引きがないから、みずから納めるけれど、実際には納めない人が少なくない。
脱税と同じだね。これを「社会保険の空洞化」という。だから、社会保険料の引き上げで対応するには、限界がある。
次に、「増税」について、検討してみよう。
直接税と間接税のどちらを増やすか?
-
直接税には、所得税と法人税とがあるが、これは、働いている人に課税する制度だから、あまり増やすと、働く意欲がなくなってしまうおそれがある。
-
また、今後、少子化により、働く人口が少なくなるから、また、経済の成長は見込めず、所得は伸びないから、直接税で対応する策には限界がある。
-
さらに、法人税は、景気が悪くて赤字になったら払わなくてもいいので、景気に左右されやすく、安定した税収が期待できない。
よって、間接税を増やさざるを得ない。代表的な間接税は、消費税だ。
-
消費税は、働いている人だけではなく、子ども、学生、主婦、高齢者など働いていない人たちにも課税できるので、少子高齢化の影響を受けにくい。
-
景気が悪くなっても、お金を使わない、モノを買わないということはないから、あまり景気の影響を受けない。
もっとも、この考えに対しては、消費税の税率をアップすると、消費が冷え込み、景気がさらに悪化するとの指摘もある。
-
消費税のデメリットは、所得の低い層は、生活費にほとんど支出するから、消費税の負担が大きいということ。
つまり、「景気回復」と「財源確保」のいずれを優先するか、ということだ。
増税を行えば、個人は消費を控え、法人は生産拡大や投資を控えるから、景気は一段と悪化してしまう。
かといって、景気対策として、減税を行えば、税収はさらに落ち込むから、財源の不足が拡大する。
このジレンマをどう克服するか。
このように、増税で対応するのも限界がある。けれど、最終的には、消費税を工夫して利用するほかないだろうと考えられている。
消費税なら、働く働かないにかかわらず、課税できるから。
ちなみにスウェーデン、デンマーク、フランスなどの消費税は20%を超えている。
もっとも、ヨーロッパは、日本に比べて物価が驚くほど安い。
また、生活必需品への税率は低く(例えば、スウェーデンは6%、12%、25%の3種類を使い分ける)、
また、富裕税を課して、バランスをとっている。
別の考えもある。今の日本における最大の問題は、「新しい企業、新しい産業が生まれない」ことにある。
新しい企業、新しい産業が次々と生まれて成長すれば、新しい雇用機会も生まれる。
そうすれば、法人税も個人所得税も、どんどん増える。つまり、企業や産業を新しく起こすことを支援する環境を整備することのほうが重要だという人もいる。
難しかったかな?
少子化によって、働く若い世代が少なくなる一方で、高齢化により、働かない老いた世代が増える。
すると、所得税や法人税、社会保険料を徴収して、公的財源を確保していくという制度、つまり働いている人から徴収するという制度は、成り立ちにくくなる、
ということは理解できたよね。
次は、社会保障について、調べよう。8で健康保険、9で年金だ。
8 社会保障を調べよう! … その1 健康保険
「高齢化で病院にかかる人や医療費の負担が増えている」のかどうか、調べてみよう。
患者数と国民医療費を調べてみた。


表をみると、患者数は、昭和55年の802万人から平成11年の832万人と顕著に増えていないけれど、内訳をみると、高齢者が増えている。
国民医療費は、12兆円から30兆円と2.5倍と急激に増加した。
1人あたりの国民医療費をみると、昭和55年(1980)に10万円だったが、平成12年(2000)には24万円になった。
これはなぜだろうね。
少子化・高齢化も原因の一つだけど、このほか、国民医療費に特有の原因がある。
老人は、医療費の負担がない(軽い)ということは知っているよね?
-
医師も患者もコスト意識がないということだ。患者は気軽に病院に行くようになり、医師も検査や薬をふんだんに使うようになった。
つまりムダづかいを生み出してしまった。
-
さっき話したように、高齢化は、生活水準が向上して、健康になり、病気をしないから長生きできるようになった結果である。
高齢化イコール病人の増加とは、単純にいえない。医療システムが普及・発達して、誰でも・いつでも・どこでも医者にかかれるようになったから、
患者が増えたという面も少なくない。
この結果、保険料の負担が世代間で不平等になってしまった。
医療保険制度は、本来、所得の高い人に高い保険料を、所得の低い人に低い保険料を課すというしくみだ。
しかし、現実には、病院に行く人は高齢者が多い。このため、「若い世代の支払った保険料で、高齢者の医療をまかなう」
という構造になってしまっている。高齢化が進むと、保険料がさらに引き上げられるから、若い世代の不満が高まる。
けれど、改革は、なかなか進まない。医療は、人の命を扱うため、「聖域」とされてきたから。
少し難しかった?医療の費用を保険料の収入でまかなうという保険制度は、もはや限界に達したということを理解してくれればいい。
9 社会保障を調べよう! … その2 年金
続いて、「高齢化により年金をもらう人が増える一方で、少子化により年金財源の負担が増えている」のかどうか、調べてみよう。
もっとも、年金制度は、5年おきに見直され、改正されるから、統計データで比較したり、確認したりすることは難しい。
だから、今回は、統計データはなく、お話だけだ。
まず、年金制度について、おさらいしょう。
年金には、サラリーマンが入る「厚生年金」、公務員が入る「共済年金」、それ以外の自営業者や個人が入る「国民年金」の3種類がある。
日本では、20歳以上になると、かならず国民年金に入らなければならないと法律で決められている。これを「国民皆(かい)年金」という。
学生もフリーターも加入しなければならない。なお、国民年金のことは、「基礎部分」ともいう。
これを年金制度に加入している人(「被保険者」という)の立場からみると、
公務員=「国民年金」+「共済年金」
会社員=「国民年金」+「厚生年金」
専業主婦・自営業者等=「国民年金」
公務員と会社員は2つ加入することになるから、これを「2階建て」構造という。
ところで、この「国民皆年金」という制度は、建前にすぎなくなっている。
サラリーマンや公務員の場合は、保険料が給与から天引きされるけど、自営業者等の場合は、自ら納付する。
しかし、実際に納付する人は6割にすぎず、未納額は1兆円に達した(平成14年)。
これを「年金の空洞化」という。
この原因は、年金制度への不信感や、不況で保険料の負担が大きくなっているためだ。
このほか、昨年、保険料の徴収事務が、市町村から国に移管されたことによる混乱や、保険料の全額免除の基準を厳格にしたため、
免除対象からはずれた人が保険料を納めないことも一因だ。
サラリーマンの厚生年金も、未納が問題になっている。平成13年の未納保険料は、486億円と過去最悪になった。
これは、厚生年金の加入は、法人事業所と従業員5人以上の個人事業所に義務づけられているが、企業倒産の増加で、
未納の保険料が膨らんだためだ。
こうした人々は将来、年金を受け取れず(または減額される)、大きな社会問題になるおそれがある。
これでおさらいはおしまい。話をもとに戻そう。
「20歳になれば、国民年金に加入しなければならない」という話から。
きみたちも、20歳になったら、保険料を払うんだ。しかし、そのお金は、きみたち自身のお金ではない。
高齢者たちのお金なのだ。というのは、現在の日本の年金制度は、先に生まれた世代を、後に生まれた世代が養うという方式をとっているから。
これを「世代間の受け渡し」とか「賦課方式(ふかほうしき)」という。これに対して、「積み立て方式」という自分の老後のために自分で払う貯蓄のような制度もある。
今、話題の「確定拠出型年金」いわゆる401Kは、この方式だ。民間の保険会社も積み立て方式だ。だから、民間の保険会社が、納めた保険料額以下の年金しか払いません、
あるいは、年金を払う年齢を引き上げます、なんて言ったら、詐欺だと訴えられる。
けれど、国の場合は、「賦課方式(ふかほうしき)」だから、許される。非難ごうごうだけどね。
なぜ、日本では、賦課方式を採用しているか。
その理由の1つめは、「世代間の公平」のためだ。今の高齢者が、若い頃は、年金制度が整っていなかったから、低賃金で貯金も少ない中でやりくりをして、親を養った。
また、戦後の焼け野原で何もなかったところに、まちを再建し、社会基盤の整備や技術開発をして、若い世代に渡した。
だから、その代わりに年金や医療の給付を受けているという考え方だ。
理由の2つめは、「高度経済成長期」において、賦課方式は、実に合理的な制度だったからだ。若い労働力が豊富で、所得も毎年上昇し続け、その一方で、
高齢者が少ない時代だった。
だから、勤労者から集めた資金で高齢者の年金をまかなうのは簡単だった。
1番目の理由は評判が悪い。実際にはリッチな老人が少なくない。年金が振り込まれると、そのまま貯金してしまう人がいる。
毎日の生活のために年金を必要としていない。もはや「社会保障」という枠を超えている。払いすぎだ、もらいすぎだとの批判がある。
2番目の理由もいまや成り立たない。現在は、経済の低成長時代に入り、所得は頭打ちだ。また、高齢化も少子化も、予測を超えたテンポで進んだ。
このため、現行制度のままだと、平成12年の時点では、国民年金の加入者3.4人が受給者1人を支えているが、平成27年(2015)には、
加入者2.0人で受給者1人を支えることになり、負担に耐えられなくなると予測されている。
だから、きみたちが(「ぼくも」だけど)老人になったときは、年金をもらう年齢が引き上げられ、かつ、払い込んだ保険料額以下の年金しかもらえなくなってしまう。
よって、経済の成長の変化や、人口構造の変化に合わせて、年金制度を調整していかなければならない。
では、具体的に、どう解決するか。
案の1は、「積み立て方式」に切り替えるという考えだ。しかし、切り替えた時点で、しばらくの間は、自分の親の面倒をみながら、
自分のための年金を積み立てることになり、「二重の負担」の問題が出てしまう。
案の2は、さっき話したような、保険料の引き上げや増税だ。これだけで対応するには限界があるが、消費税率の引き上げが現実的だと考えられている。
案の3は、定年を延長して、高齢者が働き続けて、社会保障費を負担する側にとどまることが考えられている。この考えは、
「60歳で定年退職した後の残りの人生がどんどん延びており、これをどう充実させて生きるか」という「生きがい」の問題を解決する案でもある。
しかし、高齢者の継続雇用は、企業が嫌がる。「年功序列型賃金制」だから。高齢になるほど、賃金が高くなるため、企業が高齢者を継続して雇用することを難しくしている。
また、高齢者が働き続けると、若い世代の就職難が悪化してしまう。
少し難しかった?
まとめると、「仕事をまじめにやっていれば、給料は上がり、老後の面倒は、国や会社がみてくれる」という時代は終わった。
年金が、何歳からもらえるか、いくらもらえるかは、今後の社会経済情勢によって、大きく変わる。
豊かな老後を送るか、貧しい晩年を迎えるか、自分の責任だ。「自分の人生なのだから、自分のマネープランを真剣に考え、自分の将来は自分で守る」という時代になった。
10 しめくくり
まとめとして、もう一度ポイントをおさらいしよう。
数年後に人口減少社会が到来する。
しかも、その年齢構成をみると、若い世代が少なくて、高齢者が多いという社会だ。
この社会の到来が、経済や生活にどのような影響を及ぼすのか、正確なところは分からない。現在のライフスタイルとは大きく転換した社会であることは確かだ。
だから最悪の事態を予想して、複数のシナリオを用意しておかなければならない。
ところで、「若いときの苦労は買ってでもせよ」ということわざを知っている?
人間は、苦悩を克服して、成長する。社会だって同じだ。
歴史上、社会に危機は何度も訪れた。昔の人たちは、その危機を克服して、新しい社会を築いていった。「人口減少」も、新しい社会を築くためのステップだ。
「過去」に学んで、「知恵」を絞れば、きっと解決できる。
おしまい
おことわり
以上の考えは、個人的見解であり、東京都の考えを代表するものではありません。